自己破産に関わる噂の中で、人権や資格に関するものもよく聞かれます。確かに破産手続きが始まると一部の職業に就くことが制限されるので、それと同じに違いないということで、このような噂が流布するのでしょう。
それでは検証してみましょう。まず、よく聞く選挙権の停止。選挙権というのは20歳以上の全ての国民に与えられる参政権で、憲法に規定されている基本的人権のひとつです。まさに人権として認められているものを、経済行為レベルで処理される自己破産が制限できるはずがありません。権利の格があまりにも違いすぎます。
また、かつて禁治産者や準禁治産者という制度がありました。これは重度の障害などで自分自身の判断能力がないため、行為無能力と言って契約などをしても無効になるというものです。今では民法改正で成年被後見人と呼ばれるようになりましたが、自己破産をした人というのはお金や権利を管理する能力が欠けているので、行為無能力になるという噂があります。これも全くの嘘で、心神喪失の状態にならなければ一切関係のない制度です。
また、破産手続き開始とともに一部の職業に就くことが制限される点についても、免責決定が出て破産手続きが完了すると、この制限も解除されます。
自己破産というシステムそのものが一定の歴史と知名度を持っていることもあり、どんなものかを知っている人は多いのですが、中には噂の域を出ない怪しげな情報もたくさん出回っており、それが自己破産のイメージを一層悪くしている側面を否定できません。
その顕著な例が戸籍や住民票などに関するものです。自己破産をすると戸籍や住民票などにその事実が記載されたり、免許証でも秘密の番号のようなものがあって分かる人が見れば分かるようになっている…などです。
これは実にもっともらしい噂話なのですが、自己破産というのはあくまでも経済状態に関するものです。戸籍というのはその人の出生や家族、婚姻などに関するもので、その用途は全く違います。当然ですが住民票はその人がどこに住んでいるかを知るもので、免許証はクルマの運転をするための能力があることを証明するためのものです。自己破産のような経済行為とは全く関係がありません。
自己破産をした人は官報と破産者名簿に名前が載ります。官報というのは一般の人が見ることはほとんどありませんし、破産者名簿は本人しか見ることができないので他人に見られる心配はありません。その人が自己破産をしたかどうかを知る手段は、この部分以外に一切ないのです。
弁護士などの法律家にとって、自己破産というのは日常的な業務です。しかし、だからと言って平凡な手続きをしているわけではありません。借金が返せなくなり、それを免除して欲しいというのですから、法的にも特殊な手続きだと言っても過言ではありません。それゆえに注意しておかなければならない点もいくつかあります。
よくあるのが、代理人が債務整理を受任した後でも債権者は何としてもお金を回収しようとして訴訟を起こしたり差し押さえなどの措置に出てくる可能性があります。この場合は代理人である弁護士が相手方と交渉をしたりする必要が生じてきます。
また、債務整理が始まった後の借り入れと返済には特に注意が必要です。自己破産という方法で債務整理をしようとしている人というのは、すでに借金を返済する意思を失っています。そんな人が新たにお金を借りようとすることは、最初から返すつもりのないお金を得ようというわけで、免責不許可の原因になるばかりか、ひどい場合は詐欺罪が成立することすらあります。
一方の返済についても要注意です。金融業者はともかく、知人などからの借金も自己破産をすると免責の対象になるので、長い付き合いなどを考えてその人にだけは返済しようとすると、それが不公平であるとして裁判所から免責不許可とされる可能性があります。
借金がゼロになるというメリットが大きくクローズアップされている自己破産ですが、メリットばかりではありません。どんなものにもメリットとデメリットが表裏一体になっているのが当然で、自己破産にもデメリットはあります。
自己破産をすると、いわゆるブラックリストに名前が掲載されます。このブラックリストに名前がある限り、以後は新しい借金やクレジットカードを作ったりするのが非常に困難になり、不便を感じる可能性があります。ブラックリストに名前が載っているのは5年から7年と言われていますが、実際には7年を経過した翌日に審査をしたらパスするという簡単なものではないようです。
また、破産手続きが進んでいる期間は、特定の職業に就けないようになります。あまりにもたくさんあるのでここでは紹介できませんが、弁護士や司法書士、税理士などの「士業」や、不動産関係、金融関係、風俗関係などもアウトになります。最初から分かっていてこの職業に就こうとする人はいないでしょうが、すでにこれらの職業に就いている人は破産手続き開始と同時に職を辞さなければならなくなりますので、注意が必要です。
なお、この職業制限はあくまでも破産手続き中に適用されるもので、免責決定が出て手続きが完了したら終了します。
借金問題に苦しんでいる人にとって、最大のメリットというのは借金がなくなることです。自己破産は免責決定が出ることによって借金をゼロにすることができるので、こうした人たちの願いを100%かなえてくれる制度だと言えます。いわば、自己破産が持つ最大のメリットです。
次に、これは言われてみるとその通りと思うようなメリットなのですが、自己破産をするための作業に着手をした時点で、それまでに厳しい取り立てや督促がピタリと止みます。これは、債務整理に着手するために法律事務所に依頼をすると、法律事務所は弁護士の名前で関係している各金融業者に対して受任通知というものを送ります。この受任通知は魔法の紙のようなもので、以後は債務者(借金をしている本人)に直接連絡を取ることが禁じられます。弁護士という代理人がついたのだから、以後は代理人を窓口として連絡をしなさいというわけです。
借金問題に苦しむ人というのは、借金そのものよりも取り立てに苦しんでいることが多く、代理人が受任をした時点で取り立てが止まるというのは、実際に経験した人でないと分からないほど大きなメリットです。この仕組みのお蔭で、以前ではよく見られた夜逃げをしなくても良いのです。
近年では借金問題を法的に処理しやすくなる環境が整備されており、借金問題を抱える人の多くがこうした法的な解決をするようになりました。かつては夜逃げや自殺など、借金問題が人生だけでなく生命にまで影響を及ぼすようなことも珍しくなく、貸し手である消費者金融(この当時はサラ金と呼ばれていました)を批判する声も多く聞かれました。
このサイトで解説していく自己破産というのは、実はこの当時からありました。もっと言うなら、この当時からあった合法的な債務整理の方法として唯一と言えるのが、自己破産でした。今では個人再生や特定調停などもよく用いられますが、特に個人再生というのは民事再生という新しい手法を使ったものなので、比較的新しい手法です。
自己破産というシステムを簡単に言ってしまうと、借金をゼロにする代わりに、その時点で持っている財産も全てゼロにするというものです。ゲームマシンで言うリセットボタンを押すようなもので、文字通り人生のリセットボタンを押すことができます。
自己破産をするには破産申し立てのための書類を揃えて裁判所に提出し、裁判所の審尋と呼ばれる面接のようなものを経て(審尋が行われないこともあります)、破産宣告、続いて免責決定が出れば完了となります。免責決定が出た時点で借金はゼロになり、借金問題は解決します。